第5回 麻酔前の絶食・絶飲はなぜ必要?食べてしまったら手術できない?

麻酔前の絶食・絶飲はなぜ必要?食べてしまったら手術できない?

静脈麻酔や全身麻酔を受ける前には、

「○時以降は食べないでください」
「○時以降は水分も控えてください」

といった案内を受けることがあります。

患者さまからは、

「少しくらいなら食べても大丈夫ですか?」
「水も飲んではいけないのですか?」
「朝ごはんを食べてしまったら手術できませんか?」

といったご質問をいただくことがあります。

麻酔前の絶食・絶飲は、単なる決まりではありません。

麻酔中の重大な合併症を防ぐために、とても重要な準備のひとつです。

今回は、美容外科で静脈麻酔や全身麻酔を受ける前に、なぜ絶食・絶飲が必要なのかを解説します。

なぜ麻酔前に絶食が必要なの?

麻酔をかけると、意識だけでなく、体を守るための反射も弱くなることがあります。

通常、胃の内容物が逆流してきても、むせたり咳をしたりすることで肺に入るのを防いでいます。

しかし、麻酔中はこの反射が弱くなり、胃の内容物が逆流すると、そのまま気管や肺に入ってしまうことがあります。

これを「誤嚥」といいます。

誤嚥するとどうなる?

胃の内容物が肺に入ると、誤嚥性肺炎や重い呼吸障害を起こすことがあります。

胃液は強い酸性のため、少量でも肺に入ると炎症を起こす可能性があります。

重症の場合には、酸素投与や人工呼吸管理、入院治療が必要になることもあります。

そのため、麻酔前には胃の中をできるだけ空にしておく必要があります。

静脈麻酔でも絶食は必要?

「全身麻酔ではないから、静脈麻酔なら食べても大丈夫では?」

と思われる方もいるかもしれません。

しかし、静脈麻酔でも、麻酔が深くなると意識が低下し、咳や嚥下などの反射が弱くなることがあります。

また、体質や薬剤への反応によっては、予定していたより深い鎮静状態になることもあります。

そのため、静脈麻酔でも、手術内容や麻酔の深さに応じて絶食・絶飲が必要になります。

水も飲んではいけないの?

食事だけでなく、飲み物にも注意が必要です。

ただし、「食事」と「透明な水分」では、胃から排出されるまでの時間が異なります。

水やお茶などの透明な飲み物は比較的早く胃から移動しますが、牛乳や乳製品、果肉入りジュースなどは胃に長く残ることがあります。

そのため、

・水
・お茶
・牛乳
・ジュース
・コーヒー
・スポーツドリンク

などで、飲んでよい時間が異なる場合があります。

絶飲の時間については、必ずクリニックからの指示に従ってください。

あめやガムも注意が必要

「食事をしていないから大丈夫」と思っていても、

・あめ
・ガム
・タブレット
・ゼリー飲料

などを口にしている場合があります。

これらも内容によっては絶食に影響することがあります。

手術当日は、自己判断せず、指示されたもの以外は口にしないようにしましょう。

絶食中に薬は飲んでいい?

普段飲んでいる薬については、自己判断で中止したり、いつも通り飲んだりしないことが大切です。

薬によっては手術当日の朝も服用したほうがよいものもあれば、一時的に中止が必要なものもあります。

特に、

・血液をサラサラにする薬
・糖尿病の薬
・血圧の薬
・睡眠薬
・向精神薬
・サプリメント

などは、事前に確認が必要です。

服用する場合の水分量についても、医師やクリニックの指示に従ってください。

間違えて食べてしまったらどうする?

もし手術当日に、絶食時間を過ぎて食事をしてしまった場合は、必ず医師やスタッフへ伝えてください。

「少しだけだから黙っておこう」と考えるのは危険です。

食べた内容や時間によっては、麻酔開始時間を遅らせたり、手術そのものを延期したりすることがあります。

手術を予定通り受けたいというお気持ちはあると思いますが、安全を優先することが最も大切です。

食べたことを隠すと危険です

麻酔前の食事については、正確に申告してください。

麻酔を担当する側は、胃の中を見ることはできません。

そのため、

「何時に何を食べたか」
「何時に何を飲んだか」

という情報が、安全に麻酔を行うための重要な判断材料になります。

絶食・絶飲が守れていないこと自体を責めるための確認ではありません。

麻酔方法や手術時間を安全に判断するために必要な情報です。

何時間前から食べてはいけないの?

必要な絶食・絶飲時間は、

・麻酔方法
・食事内容
・患者さまの年齢
・持病
・胃腸の状態
・手術内容

などによって異なります。

そのため、一律に「○時間前なら必ず大丈夫」と自己判断することはおすすめできません。

手術を受ける医療機関から案内された時間を守ることが大切です。

まとめ

静脈麻酔や全身麻酔の前に絶食・絶飲が必要なのは、胃の内容物が逆流し、肺に入る「誤嚥」を防ぐためです。

誤嚥は、肺炎や呼吸障害などの重大な合併症につながる可能性があります。

手術前には、

・指定された絶食・絶飲時間を守る
・薬について事前に確認する
・食べたり飲んだりしてしまった場合は正直に伝える

ことが大切です。

麻酔前の指示には、それぞれ安全上の理由があります。

「これくらいなら大丈夫」と自己判断せず、不明な点があれば手術前に医師やスタッフへ確認しましょう。

次回は、
「麻酔後に起こりやすい症状とは?吐き気・ふらつき・のどの痛みについて」
詳しく解説します。

 

記事監修

広島プルミエクリニック 副院長 延美緒

形成外科専門医

所属学会・専門医・認定医
  • 日本形成外科学会 専門医
  • 日本美容外科学会(JSAPS)正会員
  • 日本美容皮膚科学会 会員
  • ジュビダームビスタ 施注認定医
  • ボットクスビスタ 施注認定医
経歴
2011年 岡山大学医学部 医学科卒業
様々な科の中でも腫瘍切除後の形態再建を担う形成外科に興味を抱く
2011年 国立病院機構 岩国医療センターにて研修
医学博士取得
2013年 同 岩国医療センター 医員
研鑚を積み、形成外科医として腫瘍切除や植皮など形成外科的治療に携わる
2014年 岡山大学附属病院 形成外科
再建やリンパ浮腫、外傷、ジェンダーなど幅広く形成領域の治療を行う
2016年 岩国医療センター 形成外科
眼瞼下垂や熱傷、鼻の再建、腋臭症のオペなど、形成外科医としてより深く研鑚を積む
2018年 日本形成外科学会 専門医 取得
2019年 日本美容皮膚科学会 会員
2019年 県内美容皮膚科 勤務
美容皮膚科の診療に積極的に取り組む
2020年 広島プルミエクリニック 入職
形成外科専門医の知識と技術を美容外科・美容皮膚科へ活かす為、広島プルミエクリニックへ
2024年 広島プルミエクリニック 副院長就任